作り手のこと
「足す」のではなく「待つ」― 生酛と木桶のこと
熊本県和水町の花の香酒造さんがつくる日本酒「産土(うぶすな)」。今回は、そのつくり方の話を書きたいと思います。少し専門的な話になりますが、これは日本酒だけの話ではありませんでした。
産土は、木桶で仕込まれています。
木桶を使う理由は、そこに微生物が棲みつくからです。長く使われた桶には、その蔵の菌が住みついていて、その菌が発酵に関わる。だから、その桶でしかできない味になる。温度の変化がゆるやかで、発酵が安定しやすいという利点もあるそうです。
金属のタンクであれば、洗えば清潔な状態に戻せます。管理もずっと楽です。木桶はそうはいきません。手間もかかるし、扱いも難しい。それでも木桶を選ぶのは、その手間の先にしか出ない味があるからなのだと思います。
調べていて驚いたのは、醸造用の大きな木桶をつくれる桶屋さんが、全国にもう1軒しか残っていないということでした。桶職人が減り、木桶で仕込める杜氏も減っている。もっとも、最近はまた木桶仕込みに戻る蔵も増えてきているそうです。
もうひとつ、産土は生酛(きもと)という方法で仕込まれています。
日本酒づくりでは、まず「酒母(しゅぼ)」というものをつくります。ここで雑菌を抑えるために乳酸が必要になるのですが、今主流の「速醸(そくじょう)」という方法では、この乳酸を人の手で加えます。約2週間で酒母ができあがります。
生酛は、乳酸を加えません。蔵や空気のなかにいる乳酸菌が、自然に増えて乳酸をつくるのを待ちます。だから、倍の4週間ほどかかります。
足すのではなく、待つ。
この考え方は、産土という酒の在り方そのものだと思いました。米も水も土地のもの、菌も土地のもの、そして時間をかける。効率を求めれば、どれも選ばない道です。
そして、これは日本酒だけの話ではありませんでした。木桶で仕込まれた醤油や味噌は、今や全体の1%以下なのだそうです。私が店に置きたいと思っているものの多くが、実はこの「1%」の側にあります。
安いものが悪いと言いたいのではありません。ただ、効率ではないほうを選び続けている人たちがいて、その選択の先にしか生まれない味がある。そのことは、忘れずにいたいと思っています。
※20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。
この記事を書いた人
石本 由貴natural select shop こけもも 店主
福岡県柳川市で、自然食品店「こけもも」の開業を準備しています。
元・歯科衛生士。自然食品のお店で働いた経験から、食と体のことを考えるようになりました。
小学生の子ども2人を育てながら、料理が得意ではない自分でも続けられる「選び方」を探しています。
こけももは、福岡県柳川市新外町の自然食品店です。オンラインショップでも商品をご覧いただけます。
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