作り手のこと
40粒の種からよみがえった米で、酒をつくる ― 産土のこと
熊本県玉名郡和水町に、花の香酒造という蔵があります。柳川からも、そう遠くない場所です。そこでつくられている日本酒が「産土(うぶすな)」です。
「産土」とは古い言葉で、大地の恵み、ものを産み出す母なる存在を指すのだそうです。名前を知ったとき、この蔵が何を大事にしているのかが、なんとなく伝わってきた気がしました。
この蔵のお酒に使われる米のひとつに、「穂増(ほませ)」という品種があります。江戸時代には「日本一」とまで称された、熊本の在来品種です。けれど時代の流れのなかで、いつしかつくられなくなっていました。
その穂増を、地元の農家さんがわずか40粒の種から育て直したのだそうです。40粒。その数字を知ったとき、しばらく言葉が出ませんでした。誰かが「もう一度つくろう」と決めなければ、この米は消えたままだったということです。
酒づくりの方法も、かなり徹底しています。阿蘇山系の湧水を使い、菊池川流域で育てられた米だけを使う。肥料に頼らない自然栽培。仕込みには木桶を使い、生酛(きもと)という昔ながらの手法を用いる。効率だけを考えれば、どれも選ばない方法ばかりです。
なぜそこまでするのか。それは、その土地でしかできない酒をつくるためなのだと思います。米も、水も、蔵にいる菌も、その土地のもの。どれかを他所のものに置き換えたら、もう同じものにはならない。
我が家では、親族が集まったときに何本か並べて飲み比べるのが、ひとつの楽しみになっています。同じ蔵のお酒なのに、米が変わると本当に味が違う。「これは甘い」「こっちのほうが好き」と言い合う時間が、なんだかとてもいいのです。
いつか、自分の店でもお出しできたら。そんなことを考えています。
※20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。
この記事を書いた人
石本 由貴natural select shop こけもも 店主
福岡県柳川市で、自然食品店「こけもも」の開業を準備しています。
元・歯科衛生士。自然食品のお店で働いた経験から、食と体のことを考えるようになりました。
小学生の子ども2人を育てながら、料理が得意ではない自分でも続けられる「選び方」を探しています。
こけももは、福岡県柳川市新外町の自然食品店です。オンラインショップでも商品をご覧いただけます。
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