柳川のこと
あの赤レンガの蔵は、味噌蔵でした ― 鶴味噌醸造のこと
柳川の川下りで、多くの方がカメラを向ける建物があります。水路沿いに並ぶ、赤レンガの大きな蔵。「並倉(なみくら)」と呼ばれ、柳川を代表する景色のひとつになっています。
私もずっと見てきました。柳川らしい、いい風景だなと思いながら。
けれど恥ずかしいことに、あれが何の建物なのか、きちんと知りませんでした。
味噌蔵でした。
鶴味噌醸造さん。明治3年(1870年)の創業で、150年以上ものあいだ、この場所で味噌をつくり続けている会社です。あのレンガの建物は100年ほど前に建てられたもので、2000年には国の登録有形文化財にも登録されています。
主力は、米麹と麦麹を合わせた合わせ味噌で、生産量の7割ほどを占めるそうです。無添加の合わせみそ「鶴」もつくられています。
このことを知ってから、あの景色の見え方が変わりました。
あれは、保存された古い建物ではありません。今も味噌が仕込まれている、現役の発酵の現場です。観光客が舟の上から写真を撮っているその壁の向こうで、麹が働き、味噌が育っている。そう思うと、なんだかすごいことだと思えてきます。
ここ最近、私はいろいろな作り手のことを調べてきました。熊本の酒蔵が在来種の米を復活させた話。奈良の醤油蔵が杉の木桶で1年以上寝かせる話。北海道の牧場が牛の健康を第一に考えて無殺菌の生乳をつくる話。
どれも心を打たれました。そして「この土地でしかできない店をつくりたい」と、繰り返し考えてきました。
そうやって遠くばかりを見ていたのですが。
答えは、目の前にありました。
毎日のように見ていたあの風景の中で、150年、味噌が仕込まれ続けていた。灯台下暗しとは、まさにこのことだと思いました。
柳川という土地は、水と発酵の土地なのかもしれません。隣町の大川には300年続く酢の蔵があり、この街には150年続く味噌蔵がある。水路がめぐり、その水が暮らしと産業をつくってきた。
そういう土地で、自分は店をひらこうとしている。そのことの意味を、もう一度考えているところです。
この記事を書いた人
石本 由貴natural select shop こけもも 店主
福岡県柳川市で、自然食品店「こけもも」の開業を準備しています。
元・歯科衛生士。自然食品のお店で働いた経験から、食と体のことを考えるようになりました。
小学生の子ども2人を育てながら、料理が得意ではない自分でも続けられる「選び方」を探しています。
こけももは、福岡県柳川市新外町の自然食品店です。オンラインショップでも商品をご覧いただけます。
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