作り手のこと
一本の柚子から始まった村 ― 川根柚子のぽん酢のこと
我が家の食卓には、切らさないようにしている調味料がいくつかあります。そのひとつが、ぽん酢です。
正直に書きますが、これまで何十本ものポン酢を試してきました。スーパーで見かけたもの、贈りものでいただいたもの、旅先で買ったもの。そのうえで、これがダントツですと言い切れるものが、ひとつだけあります。
広島県安芸高田市の川根柚子協同組合がつくる、ぽん酢しょうゆです。
まず、味の話をさせてください。雑味がまったくありません。 ポン酢には、酸っぱさの奥にとがった感じや、うまみ調味料の後味が残るものが少なくないのですが、これにはそれがない。酸味もやさしくて、角がないのです。
なぜだろうと思って、原材料を見てみました。
> 有機しょうゆ(広島県)、ゆず果汁(広島県川根産)、醸造酢、砂糖、食塩
それだけでした。 添加物は何も入っていません。
そして、この柚子がどこから来たのかを調べていて、手が止まりました。
川根というのは、安芸高田市高宮町にある、島根との県境の山あいの地区です。特別な産業がなく、各家に一本ほど植わっていた柚子くらいしか、売るものがなかったのだそうです。
だったら、それを地域の産業にしよう。そうして1981年に、柚子の生産に取り組む組織が立ち上がりました。2012年には協同組合として法人化されています。
発足したときの柚子の木は、約400本。そこから毎年200本ほどずつ増やしていって、いまは約3,500本になったといいます。昨年の収穫量は約45トンだそうです。
400本から3,500本。40年以上かけて、ここまで来たということです。
しかも、無農薬で育てられています。皮ごと食べられるように、という考え方だそうです。川根の柚子は皮が厚くて、苦みが少なく、酸味がまろやかだと紹介されていました。
あのやさしい酸味は、そういう柚子だったから、なのだと思います。
これまで私は、熊本の酒蔵が在来種の米を復活させた話や、奈良の醤油蔵が木桶で一年以上寝かせる話を書いてきました。どれも「その土地でしかできないもの」の話でした。
川根の柚子も、同じでした。売るものが何もないところから始まって、庭先の一本を頼りに、40年かけて産業にした。
そう知ってから、あのぽん酢の味が少し変わって感じられます。
我が家では、帰省のたびに道の駅 三矢の里あきたかたにわざわざ立ち寄って、一度に何本もまとめ買いするのが習慣になりました。柳川からは決して近くありませんが、それでも寄ります。
いつか、自分の店にも置けたらと思っています。
この記事を書いた人
石本 由貴natural select shop こけもも 店主
福岡県柳川市で、自然食品店「こけもも」の開業を準備しています。
元・歯科衛生士。自然食品のお店で働いた経験から、食と体のことを考えるようになりました。
小学生の子ども2人を育てながら、料理が得意ではない自分でも続けられる「選び方」を探しています。
こけももは、福岡県柳川市新外町の自然食品店です。オンラインショップでも商品をご覧いただけます。
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